ごかん日和

使い込まれたモノの色、かたち、手触り 五感がひらく、日々の愛着

Tags: 五感, 愛着, 暮らし, モノ, 手入れ

私たちの日常には、新しいものに囲まれるだけではなく、時間をかけてじっくりと使い込まれたモノたちが静かに存在しています。それらは、持ち主の手によって磨かれ、共に時を重ねる中で、独特の風合いや表情を持つようになります。新しい輝きとは異なる、落ち着いた、しかし確かな魅力を持っています。

しかし、忙しい日々の中で、私たちはそうした使い込まれたモノたちが放つささやかなサインを見落としてしまいがちです。そこに五感をひらくことで、日常の中に確かに存在する「小さな幸せ」や「愛着」に気づき、日々の暮らしに温かな彩りを見出すことができるのではないでしょうか。

五感がひらく、使い込まれたモノとの出会い

使い込まれたモノは、私たちの五感に様々な形で語りかけてきます。その一つ一つに意識を向けてみましょう。

まず、視覚です。新しい時には均一だった色が、日に焼けたり、手油が馴染んだりすることで、深みのあるグラデーションや独特の色合いに変化していきます。表面についた小さな傷や擦れも、単なる劣化ではなく、そのモノが辿ってきた物語の痕跡として、唯一無二の表情を生み出しています。光の当たり方によって変わるツヤや、角が丸くなったかたちなど、使い込むことで生まれる視覚的な変化をじっくりと観察してみてください。

次に、触覚です。革製品が手に吸い付くように馴染んだり、木製品の表面が滑らかになったりする感覚は、使い込んだモノならではのものです。指先が自然とその感触を求め、手に取るたびに安心感や温もりを感じるかもしれません。その重みや、持った時のバランスなど、細かな部分に意識を向けてみましょう。使い込まれた布製品のくったりとした風合いや、陶器の縁の丸みなど、肌を通して感じる優しい感覚もまた、日常のささやかな喜びとなります。

さらに、嗅覚聴覚もまた、使い込まれたモノから感じ取ることができます。古い革製品の独特な香り、長年使われた木製品の微かな匂い、古い本を開いた時の紙の匂いなど、特定のモノに結びつく香りは、記憶や感情を呼び起こすトリガーとなることがあります。また、モノを置いた時の音、引き出しを開ける時の音、使い込まれた道具を使った時の音など、そこに宿る微かな音にも耳を澄ませてみると、日々の暮らしの中に溶け込んだ穏やかな響きに気づくことができます。

日常を彩る、具体的な「愛着品」の例

私たちの身の回りには、様々な使い込まれたモノがあります。いくつか具体的な例を挙げてみましょう。

これらの他にも、お気に入りのマグカップ、使い慣れたタオル、何年も履いている靴など、身の回りを見渡せば、時間を共に過ごし、独特の風合いを帯びたモノがきっと見つかるはずです。

「手入れ」の時間に五感を研ぎ澄ます

使い込まれたモノへの愛着は、「手入れ」という行為を通してさらに深まります。埃を拭き取る時、革にオイルを塗る時、金属を磨く時。その一つ一つの動きの中で、私たちは自然とモノに触れ、その状態を視覚で確認し、手触りや匂いを感じ取ります。

例えば、革靴を磨く時間。ブラシで埃を払い、クリームを塗り込み、布で磨き上げる一連の動作は、五感をフルに使う体験です。ブラシの音、クリームの匂い、革の感触、磨き上げることで増していくツヤ。これらの感覚は、単なる作業を超え、モノと静かに向き合う瞑想のような時間となります。

手入れをすることで、モノは輝きを取り戻し、さらに長く使えるようになります。そして、その過程で生まれる五感の体験は、モノへの感謝や愛着を育み、日常の中に静かで満たされた時間をもたらしてくれるのです。

まとめ

使い込まれたモノが持つ色、かたち、手触り、そしてそれに伴う微かな香りや音に五感をひらくこと。それは、最新のものだけが価値を持つわけではない、というシンプルな真理に気づく旅でもあります。

時間の経過と共に変化し、持ち主と共に歴史を刻んだモノたちは、ただの道具ではなく、私たちの日常の一部として静かに存在しています。それらに目を向け、手で触れ、五感で感じることは、過去と現在がゆるやかに繋がり、自分自身の歩みをも感じさせてくれるような体験です。

もし、日常に少し閉塞感を感じているなら、身の回りにある使い込まれたモノに、改めて五感を向けてみてはいかがでしょうか。そこに宿るささやかな愛着や物語が、あなたの日常に温かな光を灯してくれるかもしれません。