ごかん日和

身近なモノの「手触り」に意識を向ける 五感がひらく、日々の感触

Tags: 触覚, 感触, 五感, 日常, 小さな幸せ

日々の暮らしの中で、私たちは様々なモノに触れています。朝起きて最初に触れる寝具、顔を洗う洗面器、朝食のパンやマグカップ、服の生地、通勤や移動で触れる電車のつり革やドアノブ、職場で触れるデスクやキーボード、家に帰って触れるソファや本のページ……。

これらの「手触り」を、私たちは普段どれほど意識しているでしょうか。多くの場合、その機能性や見た目に意識が向き、指先や肌が感じ取る感触は、無意識のうちに通り過ぎてしまっているかもしれません。

しかし、「ごかん日和」が大切にしているように、五感を少しだけ開いてみれば、日常のありふれたモノの「手触り」の中にこそ、ささやかな幸せや豊かな感覚が隠されていることに気づかされます。

日常の「手触り」が五感をひらく

「手触り」は主に触覚に関わるものですが、実は他の五感とも密接に連携しています。

視覚:モノの見た目、色、光沢、形は、その手触りを想像させます。ざらざらしているか、つるつるしているか、温かそうか冷たそうか。視覚からの情報が、触覚の予測や感じ方に影響を与えます。 聴覚:特定の素材に触れたり、動かしたりする際に生まれる音は、そのモノの質感や手触りを補完します。紙をめくるカサカサという音、木を叩いた時の鈍い音、金属が触れ合う時の音色。 嗅覚:素材によっては独特の香りを持ちます。木の香り、革の香り、新しい本のインクの香り。これらの香りが、触覚を通じて感じるモノの存在感をより豊かなものにします。 味覚:食べ物や飲み物の「口触り」は、広義には手触りの一種と言えるかもしれません。温度や食感は、味覚体験と深く結びついています。

このように、一つの「手触り」に意識を向けることは、連鎖的に他の五感を刺激し、私たちの感覚全体を研ぎ澄ますきっかけとなります。

身近なモノの多様な手触りを感じてみる

では、具体的にどのような「手触り」に意識を向けてみればよいでしょうか。特別なモノは必要ありません。私たちの身の回りにある、ごく普通のモノで十分です。

例えば、日々使う木の家具や雑貨。磨き上げられた滑らかな表面、節の凹凸、使い込むほどに手に馴染む感触。視覚で木の温かみを感じながら触れると、より深くその素材の良さが伝わってきます。

お気に入りの陶磁器のマグカップはどうでしょう。手に取ったときの重み、表面の釉薬による滑らかさや、時には素焼きの部分のざらつき。熱い飲み物を注げば、じんわりと伝わる温かさが触覚を通じて心地よさをもたらします。

古い本やノートの紙の質感も味わい深いものです。新品の紙のパリッとした感触やインクの匂い、読み込んだ本のページの指紋や折れ目、少し黄ばんで柔らかくなった手触り。それぞれの紙が持つ物語が、感触を通して伝わってくるようです。

自然の中に目を向ければ、さらに多様な手触りに出会えます。公園のベンチの木目、道端の石のゴツゴツとした感触、風に揺れる葉っぱの薄さや葉脈の繊細さ。一つとして同じ手触りはありません。

「手触り」を通じて日々の感触を味わう

これらの身近なモノの「手触り」に意識的に触れる時間を少し持つだけで、日々の景色は少し違って見えるかもしれません。忙しさの中で通り過ぎていたモノたちが、確かな存在感を持ってそこに「ある」ことを感じられるようになります。

お気に入りのブランケットの柔らかさに頬を埋めたり、使い慣れたペンを指先で転がしたり、淹れたてのコーヒーが入ったマグカップを両手で包み込んだり。そうした小さな行為一つ一つに、私たちの感覚は静かに満たされていきます。それは、モノとの穏やかな対話であり、自分自身の内側と向き合うささやかな時間でもあります。

デジタルデバイスに囲まれ、画面越しの情報が増えた現代だからこそ、実際に「触れる」ことの価値は高まっているのかもしれません。ディスプレイのフラットで均一な表面とは異なる、多様で有機的な手触りは、私たちの感覚を呼び覚まし、現実世界との繋がりを再確認させてくれます。

小さな一歩から始めてみる

もしあなたが日常に少し閉塞感を感じているなら、まずは身近な一つのモノを選んで、じっくりと手触りを感じてみてはいかがでしょうか。それは毎日使う茶碗でも、デスクの上の置物でも、着ている服の袖でも構いません。

目を閉じて触れてみるのも良いでしょう。視覚からの情報を遮断することで、触覚がより研ぎ澄まされ、そのモノが持つ本来の感触を深く感じ取れるかもしれません。

日常の中に溢れる「手触り」という、見過ごされがちな感覚に意識を向けること。それは、日々の暮らしに隠された小さな豊かさや幸せを見つけるための、穏やかで確かな一歩となるはずです。指先から広がる感触の世界を通して、五感がひらく日々の喜びを味わってみてください。